top of page

 中央アジアの帽子展 

 中央アジアの遊牧民の刺繍衣裳を手にとると、彼の地の女性たちの様々な物語が聞こえてきます。草原の遥か彼方、愛しい人の来訪を知らせる花嫁から花婿に贈られたなじみの帽子のこと、また医療を受けることができない過酷な遊牧の地で子を護り疫病の入り込む隙もないほどに刺繍した小さな帽子のこと…今月は帽子が語る部族の記憶をたどる企画展、高覧いただければ幸いです。

 2023年1月5日よりネットギャラリーにて公開 

GALLERY 

Anchor 3

​中央アジアの吉祥文様と刺繍技法

CIMG2069_edited.jpg

 ウズベキスタン東部のフェルガナ地方はシルクロード(オアシスルート)交易の要衝として栄えた地域です。近世はブハラ・ハーン国から独立したコーカンド・ハーン国統治による、イスラーム宮廷文化の中心地の一つです。この刺繍帽子が作られた”マルギラン“は千年以上前から絹織物の生産地として知られ、現代でも織物の製作が続けられています。ムスリム用の帽子“ドッピ”は地域毎に形状・装飾のデザイン様式が異なりますが、本品は縁に黒の絹ベルベットを配し、総刺繍プラス手縫いの丹念な手仕事により仕立てられたもので折畳み式である点が意匠上の大きな特徴となります。緻密なニードルポイントの総刺繍で描かれた吉祥花モチーフはデザインが可憐であり、伝統に培われた技巧の素晴らしさ瑞々しい生命感を薫らせる心の入った手仕事の逸品です。

CIMG2174_edited.jpg

 トルクメン族はトルクメニスタンの主要民族であるとともに、隣接するイラン・ウズベキスタン・アフガニスタンの国境を越えて広範なエリアに生活するテュルク(トルコ)系の民族です。テッケ、ヨムート、エルサリ、チョウドル、サロール、サリク等の主要部族があります。
 本品は目の詰んだ織り地にテッケ族刺繍の特徴である“ケシデ(kesdi)”と呼ばれるダブル・チェーン・ステッチ技法により、全面に精緻な守護・吉祥モチーフの刺繍が描き込まれた被衣(かつぎ)です。トルクメン族にとって最も大切な吉祥花である“チューリップ”や豊穣の願いである“羊の角”の刺繍技法は、各部族で母から娘へと伝えられてきました。肉眼では確認できないほどの細密な糸(針)遣いのケシデ刺繍はテッケ族の誇りとも言えるものです。

CIMG2295.JPG

トゥルク系民族のカラカルパク族は、アラル海に面したウズベキスタン内の自治共和国において主に農牧及び漁業によって生活を続けてきた半遊牧民であり、古代に世界最古の遊牧騎馬民族国家を築いたスキタイ人の末裔(或いはそれに関係が深い)とも考えられ、イスラーム化以前から独自性豊かな伝統文化を培ってきました。本品はカラカルパク族の婚礼衣装として花嫁が自ら仕立てるヴェール””キメシェク“です。シルク朱子織地及び起毛ウール地をベースに、チェーンステッチ・ボタンホールステッチの変形技法やコーチング等の技法を駆使した刺繍により、羊・羊の角・生命樹など民族伝統の吉祥・守護の文様が緻密に描き込まれています。

CIMG2291.JPG

 ウズベキスタン南部の、タジキスタン・アフガニスタン・トルクメニスタンと国境を接する山岳地帯では比較的近年まで季節により高地と低地を移動しつつ遊牧(移牧)生活を行なう伝統生活が継承されていました。

 染め・織り・組み・刺しの技巧が一つに結実したような本バッグは、その並々ならぬ凝ったつくりから、婚礼の際の調度品(或いは嫁入り支度品)として手掛けられたことが伺えます。実際に弦楽器を収めたものかどうかは不詳ながら形状面では”タール”等の伝統弦楽器ケースが象られ、
バッグの表面に配された二つの帽子状の蓋内部には19cの多色絹絣布が配され、帽子状の蓋の裏地とバッグ内部には19cと推定されるロシア製銅版更紗、さらに中央脇には古手の絹ベルベットが用いられるなど細部の素材遣いが何とも秀逸で、作品から薫る濃密な空気感と精神性に深く惹き込まれます。

CIMG2287_edited.jpg

キルギスの刺繍は、コーカンド・ハン国支配下のウズベク刺繍(スザニ等ダウリー刺繍)の影響を受けつつ、”山岳系遊牧民”としての生活風土を背景に野趣溢れる個性的な作品が生み出されてきました。色彩的には白・黒・暗赤等の抑え目な色遣いで赤いウールのフェルトや黒地のベルベット、皮革の台地に用いられることが多く、また刺繍は渦巻きや曲線が多用される力強いモチーフ構成(アイヌ民族の切伏・刺繍文様”との相似性が指摘される)に独自の特徴が見られます。

CIMG2289_edited.jpg

 アフガニスタン北東部クンドゥズ州(Kunduz)の山岳地帯に生活する遊牧民「ラカイ族(Lakai)」は、その昔イスラーム化を拒み、近世はロシア(ソ連)による支配に抵抗、ウズベキスタン南部とタジキスタン及びアフガニスタンと国境を接する山岳丘陵地帯を居住エリアとして遊牧生活を続けてきた、ウズベク(トゥルク)系の少数民族(部族)です。 
 婚礼時の持参品としてテント用の壁掛、鏡など調度用の袋、クッションなどが花嫁自身の手によって数年の月日をかけ刺繍されます。原色を基調とする絹糸でサソリや昆虫、太陽を抽象的に表したといわれる刺繍模様は魔除けの意味を持ちその孤高の精神性を反映した野性味と生命力が感じられます。

参考資料
   「イオライフマーケット」HP 
 「世界の刺繍」文化服飾博物館 


 

 

© 2023 by Name of Site. Proudly created with Wix.com

  • Facebook App Icon
  • Twitter App Icon
  • Google+ App Icon
bottom of page