アフリカの民族衣装展
アフリカの民族衣装展
中国刺繍衣装展
先回のインド刺繍衣装展に引き続いて今回は中国貴州省の刺繍衣装を中心にご覧いただきます。彼の地の驚くほど繊細で、加えて大胆で美しい刺繍衣装に出会って30年をこえる時が過ぎようとしています。特に貴州省には刺繍名人が多く暮らしていて、彼女たちが手間隙かけて作り、着用する(していた)衣装から目が離せなくなりました。聞けば文字を持たない苗族の人びとが村の歴史文化を衣装に込めて代々伝えるものでもあるとのことです。刺繍衣装はまさに民族の高邁な精神を表現したものだったのです。私が蒐集できたものは限られますがご高覧いただけると幸いです。
2026年5月15日よりネットギャラリーにて公開
ミャオ族の娘たちは一人ひとりが皆刺繍の達人である。貴州、雲南、湖南、広西などのミャオ族自治区では、娘たちが寸暇を惜しんで針をとり、俯いて刺繍に精を出している姿をよく見かける。彼女たちが刺繍した襟、袖、前だれ、スカートの裾、おぶいひも、帽子などの図案は美しく、色彩もあでやかだ。私はこれらの工芸品が心から好きになり、手放せない気持ちであった。
ミャオ族の刺繍法は十数種類に分けられるが、よく見かけられるのは平繍と辨繍である。平繍は先に図案を布の上に貼り、様々な色糸を使って図案の上に一針一針刺繍してゆくもので花針(模様針)は使わない。大多数の娘たちは刺繍に熟練しているので、切紙の下絵を用いず、頭の中の図案だけで直接刺繍を進めていくことができるそうだ。辨繍はまず十幾本の細い絹糸を太い糸により、それで布の上に刺繍の図形を作り、これを絹糸で固定した後、一針一針刺繍してゆく。2つの刺繍法は異なった味わいを持っている。平繍は滑らかで艶がありくっきりした艶やかさがある。一方辨繍はどっしりした重量感があり、豪快な美しさを感じさせる。
刺繍の図案は地方によって違いが見られる。山地の娘たちは花草鳥獣の図案を好み河辺や谷あいに住む娘たちはよく水生動物を題材に選ぶ。芳しい香りを漂わせる花、さえずり交わす小鳥、楽しそうに舞う蝶々、清流に跳ねる魚・・・そして、そこに営まれる生活。これらの素材は娘たちの手を経て美しく誇張され、実物の形象的特徴を保ちながら強烈な装飾的効果を合わせ持っている。(中略)私は数人の若い娘たちが円座になって、一緒に刺繍をしているのを見たことがあるが、彼女たちは一心不乱に布の上から下へ下から上へと巧みに針を操り、その手さばきは実に見事なものであった。刺繍工芸はこのようにして先祖代々伝えられてきたのである。
曽憲陽著「ミャオ族の人びと」外文出版社(北京)1988年初版より
貴州省苗族の刺繍衣装
貴定苗族




貴定ミャオ族の盛装用衣装です。流麗な描線の藍ろうけつ染めの上に、多彩かつ多様な形の色布アップリケが配され、さらに細密な十字繍(クロスステッチ)鎖繍(チェーンステッチ)を駆使した小花刺繍が花畑のような味わいでこの季節に相応しい瑞々しさが感じられます。
黄平苗族




「黄平ミャオ族」の女性用晴れ着です。黄平県は絹の産地で、袖の一部と裏地に木綿布が用いられる以外は刺繍糸を含めて絹が使われています。布の下染め、天日干し、染め、そして燻しと砧打ち等、膨大な手間隙をかけ、細密な小紋・幾何学文が平繍(サテンステッチ)でなされます。裏刺しと表刺しを巧みに混交させる秀逸で高い技巧と祈りの込められた丹念な手仕事から生み出されたものです。
施洞苗族




手織りのコットン布を天然藍と黒染料でほぼ黒に近い濃藍に染め上げ、磨き光沢を掛けた“亮布”を服地に、袖部は青(紺)と赤を主体とする鮮やかな色彩のシルク糸により雄々しい獅子モチーフの刺繍が印象的です。衿裏と前身ごろ中央には極小の三角に折り畳んだ布片を切り絵のように縫いつけて立体的な文様を描く「堆繍」が施された、施洞ミャオ族ならではの高度な刺繍の技が光る衣装です。
丹寨苗族




貴州省東南部の、丹寨(Danzhai)の「百鳥衣」という“鼓蔵祭”(先祖の魂を迎え奉るための祭り)の男性用盛装です。板繭と呼ばれる絹地に刺繍された鳥やムカデや蝙蝠がさえずり踊る様子は生きる喜びにみちあふれ見事です。特に刺繍に秀でた女性の手により、半年から一年掛かりで創り上げられます。退職の記念に手に入れた思い出の衣装で、2013年の川越唐人揃いパレードにこの衣装を提供して披露いたしました。
剣河苗族




貴州省東南部剣河県に生活する「剣河ミャオ族」の晴れ着です。紅・橙・赤・青・緑・紫等の多彩な色遣いで精緻に刺し描かれた幾何学文の刺繍パーツが升目状に配置されたアップリケとして肩胸部と襟部に配された作品、独自に意匠化された“鳥”モチーフなど、部位ごとに変化の加えられた刺繍は見応えに溢れます。また首周りと後身ごろ裾部に配された白と黒の“蝶”モチーフの紋織パーツなどのディティール部分も意匠が凝らされています。


