アフリカの民族衣装展
アフリカの民族衣装展
インド更紗衣装展
今から四千年前、インダス流域モヘンジョダロで染められた色鮮やかな文様布「更紗」はやがて古代エジプト、ペルシャやローマに運ばれ、タイ、インドネシアへと伝わりました。大航海時代以降にはヨーロッパ各地、日本にも舶載され、その美しさは人々の憧れの的だったようです。
今回の展示品は限られた予算で集めたものですが、購入以来長く展示の機会がなかった更紗のサリーを中心にご覧いただきたいと思いました。暑中に5mに及ぶサリーを展示するのはとても大変でしたが、無事公開にたどり着き安堵しています。ご高覧いただけると幸いです。
2025年9月15日よりネットギャラリーにて公開
昔からの染場は、大抵、河のほとりにあり、河原は、一面ぬれた布が拡げられ、見渡すかぎり色でうまる。水しぶきをあげて布をたたく男達。樹陰で藍甕に布をつける人、鉄の大釜に火をくべてアリザリン(茜の合成染料)の煮染めをする人。女達が布の四隅を持って立ち、そこにターメリック(うこん)の黄色が威勢よくぬられていく。男も女も総出の仕事だ。木版が何度も押され、色が重なり、仕上がっていく。リズムにのった仕事、あざやかな手さばきは、さすが親子代々身についたもの。完成するまでの一工程、一工程がそれぞれ美しい。村は大抵400年ぐらいの歴史をもつ。村ごとに、地域によって、つくられる布のデザインは決まっている。5,6種類から10種類まで。近隣に住む村人や、特定のカーストの需要がある。
こうして続いてきた染布は、地厚の手織り木綿に雑に染められた下手(げて)の布も、上等な布地に精巧な版を重ねた布も、どれも間違いなく美しい。エジプトのフォスタットから出土した4世紀頃のインドの布も、おそらくグジャラート州でつくられた輸出用の大衆物とされている。それとまったく同じようなものが、いまだに続きいまだに村人に愛用されている。どの文様も単純で、愛らしく、あきがこない。文様の一つ一つには名前がついていて、その周辺の自然や歴史を物語っている。
岩立広子編 「砂漠の民と美」より
各地の更紗文様

ムスリム男性用ショールやターバンとして使用される木版更紗アジュラックです。四千年もの昔、古代インダス文明期に木綿の栽培や茜の媒染法が行なわれていたことが遺跡発掘とその分析研究により確認され、今もそれらの染織技法が受け継がれています。

先ず鉄媒染で黒のアウトライン、次にミョウバンが版でおされ、次にアリザリンの液で煮染めされる。白く残す所に粘土を入れた防染糊が版でおされ、藍に染められる。糊をおとす。労の多い仕事だが重なった色で深みが出て、使い込んで表面がはげても、下の色が出て美しい。縞の間に細かい文様を入れるのがバロートラの特徴と砂漠の民と美」で解説されています。

ペルシャ向け、礼拝用の布ミフラーブとしてインドのマスリパタムで作られ輸出されたものと入手時に教えてもらいました。マスリパタムではイラン人職人が働いていて、後にインドの更紗技法を持ち帰りペルシャでも同様の布や更紗の衣装が作られていました。

スマトラ島ミナンカバウ族に伝わる儀式用衣装の裏地です。19世紀に遡る花嫁衣裳と思われる腰衣ですが、裏打ち布として地元のどんな布より高価な インド更紗が使用されていました。深く美しい赤色で表の裾には緻密な金糸紋様が織りこまれています。

パキスタンシンド州の農牧民女性(シンディ)のチェニックはミラー刺繍の巧さでよく知られています。この衣装背面は大きなヴェールで背中を覆っているので目にする機会は少ないのですが、化学染料で染められたこの更紗はパールカール砂漠にあって、際立って鮮やかなものです。

ラジャスタン州の州都ジャイプール近郊のバグルーで古来からの独特の色、手法で作られたハンドブロックプリントです。20年近く前に手に入れた日本マーケットのための更紗布地見本の97枚の中から一枚を撮影したものです。

交易品としてアーメダバードで大量に作られ東インド会社を通じてインドネシアに持ち込まれたスバギと呼ばれる更紗布です。ジャワ更紗は両面染めですが多くのインド更紗は片面のみが染められます。儀式用の衣装や壁掛けとして大切に使用されていたため、インドネシアの島々には18から17世紀まで下るものが遺っていて驚きます。

インド更紗はヨーロッパの人々にとっても憧れの布でした。オランダ北部の港まちリーワールデンのフリースミュージアムにはインド更紗でつくられた民族衣装やベットカバーが展示されていて感動しました。写真はオランダに渡った更紗の復刻版です。広幅綿布にプリント印刷したもので、アムステルダムのミュージアムショップでみつけて購入したものです。
参考資料
「砂漠の民と美」岩立広子編集
「インドの染織」山邊知行コレクション 源流社
「COLOURS of the INDUS」V&A Museum
「Sits kotoen inbloei」Fries Museum